シンドラー事故と公共事業

 
         
   
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      去る6月3日の夕刻、東京都港区住宅公社が管理する高層マンションで、男子高校生がエレベーターのドアに挟まれて死亡するという痛ましい事故が起きた。
  このエレベーターは、シンドラーエレベーター叶サのものと判明した。シンドラー・ホールディングスAGグループは、スイスのエビコンに本部を構え、世界110カ国を超える販売・サービスネットワークと47ヵ所の生産拠点を有し、エスカレーター&動く歩道では世界第一位、エレベーターでは世界第二位の規模を誇る。シンドラーエレベーター鰍ヘ、そのシンドラーグループの日本における現地法人として1991年に設立されている。
  その後の調べで、シンドラー社製のエレベーターは全国各地で故障やトラブルが相次いで起きていることが判明し、国土交通省の調べでも大手の他メーカーと比べてシンドラー社製エレベーターの不具合率が倍以上であることも明らかとなった。
  ここで注目したいのが、シンドラー社製エレベーターの施工実績が公共施設に多いことである。全国シェアー1%に対し、UR(都市再生機構、旧公団)住宅は4%、都営住宅では11%以上を占めるという。国土交通省の発表でも、公共事業を受注した際に基準価格以下の低価格であったために調査対象となったケースが少なくとも2年間で6件あったとされており、自社のHPでも事故前には保守管理の安さと同業他社よりも2〜3割安い販売価格をアッピールしており、安さを売り物にしていたことは紛れも無い事実である。
  シンドラー社によると安さの秘訣は工期の短縮などを挙げているが、品質については専門家でなければ判断は付け難い。財政難にあえぐ国や自治体にすれば、格安のシンドラー社は最適のメーカーと位置づけられ、同社は公共事業を着実に落札していたようである。
  またその後シンドラー製のエレベーターが、世界中でこのような事故を起こしているという報道もあり、今までシンドラー社に製品を発注した自治体などでは、動揺が広がり「シンドラー離れ」が急速に進んでいるという。
  しかし、これでは後の祭ではないのか。現況では公共事業入札において、最安値で落札することと、ダンピングはニアコールではないのか。シンドラー社のように世界でも有数な規模の大会社が、本気で価格競争を仕掛けてくれば、安値を提示すること自体それほど難しくないであろう。
  公共事業は、本来「社会公共の利益を図るための事業。」である。その目的は、「社会公共の利益を図るために適正な品質の公共財を造り・維持すること」にある。公共事業における入札は、手段であり決して目的ではない。「安さ」というのは二番目以降の要因である。
 私は適正な工事を担保するためには、コストダウンを合理的に証明できる根拠が業者側に無い限り、発注者は自身の積算に責任を持つ証として最低制限価格を設定するべきであると考えるが如何であろう。
  付け加えれば、エレベーターのように絶えず安全のためにメンテナンスが必要な製品は、特に導入時のコストが特別安価であること自体が疑問である。製品の部材一つ一つの強度と耐用年数を考えた安全設計をすれば必然的に製品価格は決まってくるのではないのか。イニシャルコストが安くても、トラブルなどでランニングコストが高くついては何もならない。増して、人命に直結する安全を最優先とするべき公共財においてはなおさらである。
  今回のシンドラーエレベーター問題が、現在の公共事業の入札制度のあり方に一石を投じているように思えてならない。

 
   
 
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