「広域行政」を支える高速道路の役割
 
         
   
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○広域行政の時代

 現在、地方の市町村では「行政の広域化」がキーワードとなって取り組まれている。
 これは自動車を中心とした交通網(特に高速道路網)の発達により、時間距離が短縮し、住民の日常生活や経済活動の範囲が大きく広がってきており、それによって価値観の多様化やライフスタイルの変化、環境問題への関心などが急速に高まり、住民の行政に対する需要が年々複雑、多様化し、高度化専門化するなど、市町村の行政サービスに新しい展開が求められている。
 一方、人口の都市集中化が進むとともに、地方とりわけ農山漁村部における過疎、高齢化の進行が深刻な問題となっており、人口定住、高齢化対策のための各種の総合的な施策の推進が強く求められている。
 これまでは、これらの様々な行政課題に対して、それぞれの市町村が個別に取り組んできたが、限られた職員数や財源でこれらすべてに応えていくことは、限界が見られるようになってきた。
 おりしも、地方分権の時代を迎え、住民に最も身近な市町村行政への期待に応えるべく、住民に新たな負担を求めないで、規模を大きくすることにより生じるスケールメリットを生かす「行政の広域化」が進められている。
 今回は、JH東海北陸道「富山〜岐阜」ルートの建設と並行して、計画され設立された「南砺広域連合」とそれを支える高速道路の役割について、レポートする。

○広域連合と一部事務組合
 現在、広域的な行政システムの主流としては「広域連合」と「一部事務組合」がある。 広域連合とは、単独自治体では実施困難な事業等や既成の自治体の枠を超えて行った方が効果的であるような広域的事務処理を目的として、平成6年の地方自治法改正で生まれた特別地方公共団体のことをいう。
 主な特長は次のとおりであり、平成12年1月7日現在、26道府県で58連合が発足している。

@ 国や都道府県から権限・事務の直接の委任を受けられる

A 構成団体に勧告や命令を出せる

B 連合長や連合委員の直接選挙が可能

C 住民の直接請求ができる

 同様に広域的事務処理を執行するための特別地方公共団体として、一部事務組合がある。昭和44年より全国的に順次設置されており、平成8年現在で総数2818組合である。富山県では昭和45年より5つの広域圏事務組合を組織しており、東海北陸道沿線については砺波広域圏事務組合(一市五町四村)が所掌している。

 両者の相違点としては、広域連合が国や県と対等の立場にあるのに対して、一部事務組合はあくまでも構成団体の事務の一部を共同処理しているに過ぎない立場であることといえる。よってここ数年、一部事務組合の総数は、より複合的でかつ権限の強い広域連合への移行もあって、全国的に漸減傾向にある。

○ 南砺広域連合
 南砺広域連合は、平成11年5月14日に複数県の広域連合としては全国で初めて自治大臣認可を受けて設立された。メンバーは富山県の福光町、城端町、平村、上平村に岐阜県の白川村が加わった二町三村により構成されており、初代の広域連合長には互選の結果により福光町長が就任した。
 これらの五町村は、歴史的にも結びつきが強く、昔から一つの生活圏を構成していたと思われる。
 南砺広域連合の設立の背景には、地域の65歳以上の人が人口に占める割合は、県平均が19.7%なのに対して、平村34.1%、上平村28.6%、城端25.8%など高齢化が進んでおり、一方では現況医療施設の整備が遅れている実態があった。 福光町には公立病院がなく、平・上平・白川村には診療所しかないために、周辺町村民は城端厚生病院依存してきた。しかし、同病院も老朽化が進み、かつ病床数も90床しかないため、新病院の建設が急務となっていた。おりしも、東海北陸道の開通を目前に控えて、開通により時間距離が一層短縮され、医療を含めた生活圏の一体化がこれまで以上に急速に進むものと見込まれた。こうした状況から5町村が連合して共同での新病院建設の機運が高まり、平成14年秋頃までに旧城端厚生病院敷地内に新たに南砺中央病院(病床数190の総合病院)として開院するべく、その設置運営主体としての南砺広域連合が設立された。
 この地域では、従前までは一般の通院ルートとしては、一般国道(R156やR304)等に頼っていたが、山間を縫うように抜けるため天候等の影響を受けることもあって、所要時間が年間を通して一定しない弱いルートである。平成12年に東海北陸道が開通した場合、例えば白川村から同病院までの所要時間は、現在40分かかっているところを20分で到着できるため、特に緊急時や冬季の迅速で安全確実なルート確保に高速道路が大きく寄与することとなる。  

○ 砺波広域圏事務組合
 富山県の東海北陸道沿線には、もう一つ砺波広域圏事務組合がある。こちらは、砺波市、城端町、平村、上平村、利賀村、庄川町、井波町、井口村、福野町、福光町の1市5町4村で構成されている。
 県境周辺の村々には、災害や事故がめったに発生しないため、現状は常設の消防署を持っていない。東海北陸道が開通した場合、IC周辺に救急隊の配置が必要になるが、村(上平村・平村・利賀村)単独で救急隊を設置する財政的な余裕はない。
 このため、広域事務組合では高速道路での使用を前提として、既存市町村の消防組織を砺波広域圏消防本部で一体統括する予定である。
 また、上平IC付近にも高速での事故対応を想定して分遣所を設置した。
 これらにより今後は、高速道路上だけでなく、周辺地域の事故や火災の処置、救急患者の搬送については消防本部で統括して管理し、近傍の拠点で対応できない場合には高速道路を通行して周辺の拠点より応援派遣することが可能となる。  また、ゴミ処理についても、ゴミは発生した地元町村で処理するのが原則であるため、従前までは福光町と平村にあるゴミ処理施設で各々処理してきた。ところが、平村の処理施設は老朽化しており、近年のダイオキシン対策の環境基準(0.5ng/N・m3以下)をクリアするためには全面的な設備更新が必要となった。
 このため、広域事務組合では今年度より平村の施設を廃止して、福光町の施設に集約することで処理している。福光町にある南砺リサイクルセンターは平成7年に更新した最新施設であり、日本初の厚生省国庫補助金対象施設として、「ゴミ固形燃料システム(RDF)」を導入することでダイオキシン抑制に大きく貢献(実測値0.019ng/N・m3)している。さらに製造した固形燃料は、町民プール給湯や中学校暖房等に有効利用されている。
 現在、ゴミ処理場までの搬送ルートとしては現道を利用しているが、将来的には東海北陸道を利用することを前提としており、さらには岐阜県内の白川村や荘川村からも処理エリアに統合して欲しいという要望があり、現在調整中である。

○ 広域行政を支える高速道路の役割  このように、地方とりわけ過疎、高齢化が進む農山魚村部に高速道路が開通すると、それを利用する周辺市町村及び住民に対する利便としての波及効果は、計り知れないものがあるように思われる。
 地方の高速道路周辺の市町村が、広域連合を形成して病院・消防・ゴミ処理等の公共施設や美術館・ホール・運動施設等の文化施設ごとに役割分担をする代表を決めて、その設置運営主体として広域連合が統括すれば、一種の都市計画にも似た夢のある地域振興がそこに存在する。
 さらには、現在の大都市集中型を抑制して、均衡のとれた国土行政構築のための受け皿づくりにも貢献するであろう。
 そういう意味でも、全国につながる高速道路網整備の意義は大変深いものある。  

 

   
 
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